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Dragon's nest

Dragon's nest

第9話:infancy(幼少)(5/20更新)

「ふぇひふぉおへぇひゃん?!!
 (セイのお姉ちゃん?!!)」


後から事情を聞かされて、ザクラも驚いた。

だが、食物を口に運ぶのを止めなかったので、
セシルに「行儀が悪い」と注意された。

『二○加煎餅』はじめ、
チョコが持ってきた九州の銘菓なる大量の菓子が、
ザクラによって殆ど空箱となった。
…凄まじき食欲である。

「んぐっ…セイにも“きょうだい”いたんだね!
 …でも、全然似てないよ?」

ザクラが不思議そうに言うと、
「セイちゃんオカン似っち、ザクラは知っとーやろ?
 でもウチ、オトン似やけん」
と、自分の顔を指差すチョコ。

「さぁ、どうだか…」
と、セイが冷たい眼差しで言ってみた。

「ナンねアンタ、まだ疑っちょーと?(ムスッ)」

「確認しようにも、饗音が居ないもんでね…何故か(ムカッ)」

「あー、しゃーない!
 ウチ音痴やけど、あの歌唄っちゃる!
 アンタなら知っちょーハズやけんね!」

一呼吸置いて、チョコが指を振りながら唄いだす。



《起きよ、目覚めよ、十の子起こせ。

 蝶が訪ねれば、雀を起こせ。

 鼠と鳥が、こちらを探り。

 蛇と兎は、咎狗見張る。》




その場に居た双子は、
聞いた覚えのあるメロディーに首を傾げた。

「これって…人間界の、『蝶々』の歌?」

「でも歌詞が違うだろ!
 正解唄ってやれよ、ザクラ!」

セシルは些か、ブーイング気味だ。


だが、セイは何も言えなくなり、
「まさか」と思った。

昔、ナルミが唄った歌と同じ歌詞だったからだ。




『おかーさん?
 ようちえんでうたったのとちがうよー?』

幼いセイが指摘したが、
母は笑って人差し指を立てて、謎めいた事を言った。

『そりゃそうだろうね。
 …いいかセイ、この歌詞を余所で唄っちゃいけないよ?』

『なんで?』

『…ママの秘密の暗号みたいなモノだからね。
 覚えてなくても良いが、唄っちゃいけない。
 いつか大きくなったら意味が解るから。
 その時の為に、お前にコレをあげよう』

母が差し出したのは、小さな玉のような物だった。

『キラキラしてる!なにコレ?』

『これは………』


そこでセイの記憶は途切れた。




「なん…で…」


(つか、俺でも忘れてたのに、
 何で、この女があの歌を知っている?!)


「思い出したん?」と、チョコがニヤリと笑った。

その時、小気味よく鋭い音が庭から聞こえた。

 …パチン

「…何の音?」

 …パチン パチン

「…鋏?」

庭を見ると、またもや見知らぬ人物が、
木の枝を剪定鋏で切り揃えていた。
栗色のクセっ毛の、小柄な女である。

「…誰アレ?」

「植木屋が来るの、今日だったか?」

チョコも庭に乗り出し、その人物に話し掛けた。

「あっれ、ネコ姉!
ナンしよ~ん?!!!」


(え、マジ知り合いかよ!!!!)


鋏がピタリと止まり、人物がチョコを睨み付けた。

その直後、

「…そりゃこっちのセリフじゃダアホーッ!!!!」

 ガスッ!

「ごぶはっ!」

素早く飛び付き、チョコの腹部に蹴りを一発。
更に、身長差があるにも関わらず、
チョコがバランスを崩した所で、技をかける。

「呑気に唄いよってッ!
 早よ本題言わんかボケッ!」

羽交い絞めにされつつ、チョコも負けじと反論する。

「じゃかぁしいわキサンッ、方向音痴がよぅ言うわッ!
 アンタ、ウチより先に駅ついてたクセに、ナン今更…」

 ギリギリギリッ!

「い゛ったぁーーーッス!!!!
 ギブギブッ放し放しィーッ!!!!」

チョコが激痛のあまり、床をバンバンと叩く。
ずれた眼鏡もカタカタと揺れる。

「さっき、『ネコ姉』って…
 って事は、まさかあんたも」

呆気にとられつつ、セイが恐る恐る訊ねると…

「ああ、やっぱり知らなかったか。
 オレの名は『閑 鼠好(シズマリ ネコ)』。
 オレもお前の姉の一員だよ、門前成市。

ネコはしれっと答えたが、
セイは今まで以上に、母を呪いたいと思った。

俺以外に、何人子がいるのか…と。

「あれ?そういえば、ラバ君は?」

『ひよ子饅頭』を包み紙から出しながら(まだ喰うか)、
ザクラが空気を読まずに訊ねた。
すると、「噂をすれば影」と言わんばかりに、

 ガラッ

「すいません、チョコ殿。
 こんな感じで如何ですか?」

ラバイトが別室から入ってきた…
しかも、何処かで見たような、煌びやかな衣裳に着替えて。

「お前、何やってんの?!」とセイが言いかけたその時…

「さ、サンホラ…ッ!!!!」

厳しかったネコの表情が、一気に緩んだ。
キラキラとした乙女の表情である。

「ふふふ…ネコ姉、好きやろー?
 ソ○モンにしようかー、グラ■ムにしようかー、
 それともフ△イにしようか、色々悩んだんやけどー♪」

楽しそうにアニメキャラの名前をスラスラ挙げるチョコの表情も、
乙女…いや、『コスプレに萌える腐女子』そのものである。

ラバイトもラバイトで、
「自分はどれでも構いませんよ?
 どれ着ても似合っちゃいますから(ニコリ)」
と上機嫌である。

いつもなら、セイかセシルが
「お前もノリノリになってんじゃねーよ!」
とド突いてやるトコロだが…。


(も、もう勘弁してくれよ、オタクら…)


セイの思考は一時停止してしまった。


「セイー?何で顔青くして止まっちゃってるのー?
 …ほえ?
 セシルも顔赤くして止まっちゃった?おーい?」


セシルが一時停止してしまったのは、恋人に見惚れたから…
とは、言うまでもないが。

空気が読めない子・ザクラは、
暫くセイとセシルの顔面で手を振っていた。


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